在宅医療における認知症の診断とフォローアップのこつ
三大痴呆の診断に慣れよう!

メディカル朝日 Dr平原の 在宅医療のツボ 第2回(2005年5月号)より

東京ふれあい医療生活協同組合 梶原診療所
平原佐斗司

認知症は在宅医療のcommon diseaseであり、私たちの診療所では訪問診療対象者の基礎疾患の第3位、外来に通院する軽度の要介護高齢者の基礎疾患の第1位を占めている。

認知症の基礎疾患は多彩だが、アルツハイマー型痴呆(ATD)と脳血管性痴呆(VD)、レビー小体型痴呆(DLB)の三大痴呆が原因のほとんどを占める。

認知症の診断のこつは、患者の状況を最も知っている家族からエピソードを聴取することである。

ATDでは、家族「同じことを何回も言う」「家事や趣味など今までできていたことをしなくなった」「とられ妄想」などの初期症状に気付くことが多い。このように短期記銘力低下から発症し、身体症状を伴わずに、見当識障害が時間、場所、人の順で悪化するなど、中核症状の進行が一定の経過をたどって進行する場合は、典型的なATDと診断してほぼ間違いはない。ATDは発症から約10年で死に至る疾患であるが、末期まで運動野は保たれるので、ADL障害を来すような他の合併症をもたないATD患者は通常外来で長期にわたってフォローされ、早期から訪問診療の対象となることは少ない。

高血圧や脳梗塞などの動脈硬化性疾患の既往があり、脳卒中発作の3ヶ月以内に認知機能の低下が観察された場合、あるいは「今年の○月から」と症状が比較的急に出現し、身体症状や病的反射などの神経所見を伴う場合はVDを疑う。VDでは認知機能の障害は比較的軽く、改訂長谷川式簡易知能スケールでは遅延再生の項目よりも他の項目の成績が悪い。一般的に階段状の経過をたどり、生命予後はATDより不良であるが、抗血小板療法など進行を食い止める方法がある。

進行性認知障害に加え、ありありとした幻視、注意や明晰さの動揺、パーキンソニズムのうち2つが認められた場合には、DLBと診断する。失神や転倒が多く、ATDと比べて近接記憶が比較的保たれていることが特徴である。ADL障害があるのに、病的反射がなく、頭部CTやMRIで梗塞巣もなく、歩行障害の原因となる頚椎や腰椎の異常も認めない場合はDLBを疑う。精神症状に対しては、ATD以上に塩酸ドネペジルが有効である。

VDやDLBなどの身体症状を伴う認知症では、正常圧水頭症や慢性硬膜下血腫などの治療可能な痴呆との鑑別が重要となるので、在宅医療といえども頭部CTなどの最低限の検査は必要である。

これら認知症患者のフォローアップにおいて重要なことは、全身管理(合併症の早期診断と治療)と「行動・心理徴候」(BPSD*)への対応である。我々の調査では、認知症患者の死因を見ると、ATDなどの原疾患ではなく、内科合併症で死亡している場合が多かった。特に歩行障害やうっ血性心不全などの内科疾患を合併する高齢のATD患者は予後が悪いと言われている。また、認知症患者は症状を正確に伝えたり、自ら受診行動を起こすことができず、症状が乏しいため、しばしば看過されやすい。介護者の観察力、訪問看護での定期的な全身管理、医師による合併症の早期発見、早期治療が大切である。

次に重要なのは、BPSDへの早期の対応である。BPSDに対しては、「環境整備」「介護者への接し方の指導」「レスパイト・ケア」を組み合わせ、早期に対応する。近年、BPSDに対してリスペリドンなどの非定型抗精神病薬の有効性が報告されており、必要な場合はためらわずに「薬物療法」を併用する。この場合、DLBの患者に対して向精神薬を安易に用いると動けなくなる場合があるので注意を要する。


* 従来、認知症に伴う精神徴候は「問題行動」と呼ばれていたが、その差別的な響きが反省され、近年「行動・心理徴候」(BPSD)と呼ばれるようになった。BPSDは痴呆症の経過中のある時期に60~90%の患者に見られ、その症状は個別性が高い。BPSDは認知障害などの痴呆の中核症状を元に、患者の生来の性格、環境的要因や患者の心理的状況が合わさって発生する。BPSDは患者の生活の質を低下させるばかりでなく、重度のBPSDのコントロールはしばしば困難で介護者や家族に大きな負担を強い、在宅生活の継続が困難となるきっかけになることが多い。

疾患 アルツハイマー型
痴呆(ATD)
脳血管性痴呆(VD) レビー小体型
痴呆(DLB)
疫学 女性に多い 男性に多い 60歳以降、男性に多い
発症 緩やか 比較的急 緩やか
進展 スロープを降りるように 発作のたびに階段状に進行(例外がある) 進行性、動揺性
全経過 10年(2~20年) 7年 ATDより短い(7年)
記憶障害 初めから出現 比較的軽度 初期はATDに比べ軽度
運動障害 重度になるまで出現しない 精神症状に先行して出現、あるいは平行して悪化。 パーキンソン様症状。転倒が多い
精神症状
・徴候
物取られ妄想(ATDに特徴的。軽度で出現) 意欲、意識、感情。 ありありとした幻視、失神。意識の動揺、注意力障害
予防・治療 軽度のATDでは塩酸ドネペジルが半分の症例に9-10ヶ月間有効 生活改善、薬物(抗血小板療法など)による予防が可能 精神症状については塩酸ドネペジルが有効
その他 感情、運動は重度となるまで保たれる 局所の神経症状(片麻痺、構音障害、嚥下障害、歩行障害、尿失禁など)
脳卒中の既往。動脈硬化の危険因子の存在。
向精神薬への過敏性

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